VVVFのキモ GTOとIGBT


VVVF制御の話をするうえで、

よく話題に上がるのが、

「GTO」と「IGBT」という言葉です。

この「GTO」やら「IGBT」って、なんのことでしょう?

前回の「電車の制御方式 VVVF制御方式」では、

スイッチングを行って電流を切ったり入れたりする部分を

ただのスイッチで表していましたが、

その「スイッチ」として機能するのが「GTO」や「IGBT」と呼ばれる「素子」です。

では、これら「GTO」「IGBT」とは何物でしょうか?

これは、ともに「半導体素子」と呼ばれるものです。

決して三菱自動車が発売していたスポーツカーではありません。

V6ツインターボで4WDに4WS、前後可変スポイラー付けてた無茶苦茶なマシン。

こういうバブリーなマシン、けっこう好きです。

閑話休題。

半導体素子(半導体)については、こちらの項を参照してください。

さて、そのGTO・IGBTとはどんなものなのでしょうか?

詳しく説明すると付け焼刃のボロが出て、自分でもワケわかんなくなるので、

簡単に、さらっと説明していきましょう。


・GTOサイリスタ(Gate Turn Off Thyristor)

反町隆史がやってたドラマとか、それの原作になった漫画とかもしくはアニメじゃありません。

GTOとは半導体素子の一種である「サイリスタ」の種類のひとつです。

だから「GTOサイリスタ」とも呼ばれます。

GTOの説明に入る前に、まず通常のサイリスタとはどんなものか説明します。



この図が、サイリスタの回路記号(左)と半導体のサンドイッチの図です。

ちょうど、ダイオードをふたつ重ね合わせたようなものですね。

サイリスタは3つの接点を持っていて、

それぞれA(アノード)、K(カソード)、G(ゲート)と名前がついています。

電気は基本的にAからKに向けてのみ流れますが、

普段は流れることは出来ません。

しかし、GからKに向けて電流を流してやると、

その電流に引きずられるような感じでAからKに向けて電流が流れ始めます。

すると、Gに流していた電流を止めても、AからKに向けて流れる電流は

流れっぱなしになるのです。

ちなみにこの現象を「ターンオン」といいます。


ゲート(G)からカソード(K)へ電流を流すと(青線)、アノード(A)からカソード(K)へも流れ始める(赤破線)

電車の制御の場合、A−K間が電車のモーターに電流が流れる「主回路」になります。

前項のVVVFの説明で言うと、スイッチの部分に当たります。

一方のゲート(G)は、運転士のハンドル操作を受けて、電流の制御を行う装置につなぎます。

ゲートに流れる電流は小さなものでよいので、いちいち大電流を切るようなものは必要ありません。

このサイリスタは、鉄道業界でもチョッパ制御やサイリスタ位相制御などで

割と多く使用されていました。

しかし、このサイリスタ(SCR)の場合、A−K間の電流を止める(ターンオフする)場合、

A−K間の電流そのものを切ってしまうか、

逆にKからAに向けて電流を流さないと止めることが出来ません。

もっと簡単にA−K間の電流を切るためにはどうしたらよいか?

そこで作り出されたのが、GTOサイリスタです。



GTOサイリスタは、サイリスタ(SCR)に対して半導体のサンドイッチ方法を少し変えました。

しかし、基本的な機能は同じで、ゲート(G)からカソード(K)へ向けて電流を流すと、

その電流に引きずられるように、アノード(A)からカソード(K)へ電流が流れ始めます。

ゲート(G)からカソード(K)へ電流を流す(青線)と、アノード(A)からカソード(K)へも流れ始める(赤破線)

では、サイリスタ(SCR)と何が違うか。

それは、A−K間の電流の切り方に違いがあります。

GTOサイリスタでは、A−K間の電流を切る(ターンオフする)ためには、

電流を流す時とは逆に、カソード(K)からゲート(G)に向かって電流を流せばよいのです。

これによって、アノード(A)からカソード(K)に流れる電流をストップさせることが出来ます。

もちろん、ゲートに流す電流は小さいものでよいので、電流は扱いやすくなります。


カソード(K)からゲート(G)へ電流を流す(青線)と、アノード(A)からカソード(K)への電流は止まる

この、ゲート電流によってターンオフが出来るために、

「ゲート・ターン・オフ(Gate Turn Off)」サイリスタ、

略して「GTOサイリスタ」と名付けられました。

GTOサイリスタとは、大体このようなものです。


・IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)

まず、IGBTという名前は、上のタイトルの通り「インスレテッド・ゲート・バイポーラ・トランジスタ」の略で、

日本語に訳すと「絶縁ゲート2極トランジスタ」となります。

後藤は電気屋さんじゃないのでボロが出そうなのですが、

IGBTは「バイポーラトランジスタ(普通のトランジスタ)」のゲート部に、

電界効果トランジスタ(MOSFET)を乗っけたものらしいです。

詳しく理解しようと思ったけど、挫折した。

さて、そんなIGBTですが、どんな形をしているかといいますと。



このような形状になっています。

このIGBTも、基本的な作用はGTOサイリスタとほとんど変わりません。

VVVFの項でスイッチで表されていたのが、コレクタ(C)とエミッタ(E)で、

ここに電車のモーターを動かす主回路を接続します。

ゲート(G)にはそのモーターを制御するための制御回路をつなぎます。

ゲート(G)からエミッタ(E)へと電流を流すと、それに引きずられる形で、

コレクタ(C)からエミッタ(E)へ電流が流れ始めます。

この電流を止めようとしたら、GTOと同じようにゲート(G)へ逆方向の電流をかければ、

C−E間の電流を止めることが出来ます。


ゲート(G)からエミッタ(E)へ電流を流す(青線)と、コレクタ(C)からエミッタ(E)へも流れ始める(赤破線)
エミッタ(E)からゲート(G)へ電流を流す(青線)と、コレクタ(C)からエミッタ(E)への電流は止まる

IGBTはGTOとほとんど同じ機能や動作をするため、

VVVF機器の作り方など基本的なものは同じ考え方が出来ます。

では、このふたつはどのような違いがあるのでしょうか?


・GTOとIGBTの違い

今までの電車には、

ほとんどの場合GTOが使われてきました。

しかし、近年ではIGBTを使う車両が多くなってきています。

もともとIGBTという素子そのものは、

産業機械の駆動用として多く使われていたそうです。

しかし近年、電車でも使えるようなものが比較的低価格で大量に作られるようになり、

GTOよりも性能が良いために使われ始めたようです。

では、このふたつはどのような違いがあるのでしょうか?

簡単にまとめたのが、下の表です。

IGBT

GTO

電圧

比較的中程度
(約1400〜2000V)

大きなものでも耐えられる
(約4500V程度)

電流

小さい

大きい

スイッチング周波数

比較的大きく出来る
(〜3MHz程度)

あまり大きく出来ない
(〜500kHz)

スイッチング損失

小さい

大きい

ゲート駆動電流

電圧で駆動(低め)

電流で駆動(大きい)

特徴

スイッチング速度が速い
騒音が小さい
駆動電力が小さい

大きな電流に耐えられる

電圧は、素子が耐えられる電圧です。

これは、GTOのほうが大きな電圧に耐えられます。

また、電流もGTOの方が多く流すことが出来ます。

しかし、素子をスイッチングさせて電気を制御する性能に関しては、

IGBTの方が高速で動かすことが出来ます。

また、これにより、駆動時の騒音も小さくすることが出来ます。

そしてスイッチングを行った際に発生する損失もIGBTのほうが小さく、

損失が小さいために発生する熱も必然と少なくなります。

ゲート駆動電流は、ゲートにどのくらいの電気を流せば、A−K間(もしくはC−E間)に電気を流せるかです。

これも、小さな電圧で駆動するIGBTのほうが性能が良いことになります。

このように、電車で使う上では、GTOよりもIGBTのほうが損失が少なく、

性能が良いことになります。

このことから、最近はIGBTが多く使われています。

なお、GTOは大電流を扱えるために、

変電所などの電力系設備で今も多く使われているらしいです。

以上のように、

ちまちまちまちまといろいろ書いて来ましたが、

GTOとIGBTは大体こんなもんだと思っていただければ、

幸いです。