かご型三相誘導電動機


アラゴの円盤」の項目で、

基本的な考え方はご理解いただけたかと思います。

さて、では実際の電車ではどのようにそれが応用されて使っているのか。

基本的には先ほどの「アラゴの円盤」と同じようなものです。

違いは、回っているのが円盤ではなく筒状のものであるとか、

磁石ではなくコイルを使っているとかそんな感じです。

まずは、アラゴの円盤をちょっとだけ応用した、下の画像をご覧ください。



磁石のN極とS極の間に、円盤ではなく、

中心に軸を通した電線のわっか(コイル)を置きました。

これで磁石を動かすと、

アラゴの円盤の説明どおりに



コイルもつられて同じ方向に動きます。

なぜそうなるかは、アラゴの円盤の説明を元にご理解ください。

さて、この画像だとコイルが一組しかないので、

磁石とコイルの「すべり」が大きい時に

磁石とコイルの間隔が広がってしまうと

コイルの動きが止まってしまいます。

そこで、もっとスムーズに動かすためにコイルを増やします。



こんな感じに増やせば、磁石をグルグル動かすと、

コイルもスムーズに回転するようになりますね。

これが、実際の電車で使われている「誘導電動機」の基本的な構造です。

もっと現実に近い形に表すと。



こんな風に導体が束になったものを環で結んだものになります。

実際は、この束になった導体を鉄心などで結んでいるので、

円筒形のものになります。

これを「回転子」と言います。

この格好がまるで「かご」のようなので、「かご型回転子」という名前が付いています。

で、この「かご型回転子」を使った三相誘導電動機を「かご型三相誘導電動機」と言います。

(言い方に多少違いは有ります)

磁石がこの回転子の周りをグルグルと回ると

回転子もつられてグルグルと回り、

その軸から回転力として出力されます。

さて、今まではこの「回転子」を動かす力を磁石で現していましたが、

先に記したとおり実際は磁石で回しているわけではありません。

ここから、なぜ「VVVFが三相交流」を出力していたのか、

その理由がはっきりとわかります。


実際の誘導電動機では、

磁石の代わりに回りにコイルを配置しています。

電線に電気を流すと、その周りにプラスからマイナスの向きに対して右向きに磁界が発生します。

これは、右ねじの法則で説明しています。

実際では、コイルに電気を流して磁界を発生させる事で、

磁石と同じように磁束を発生させています。

さて、その実際の誘導電動機(かご型三相誘導電動機)は

模式的に表すとこんな感じになります。

かご型三相誘導電動機

以後の説明をしやすくするために、だいぶ簡略化していますが、

概ねこんな構造です。

上下に三相交流回路があり、配線でそれぞれつながっています。

三相交流によって作り出される「磁界」が回転する事により、

中に入っている「かご型回転子」がつられて回転するというしくみです。

では、三相交流がどうやって「磁界」を作り、

その磁界を「回転」させるのか、

説明しましょう。

その前に、この説明における電流の表し方について。

電線をぶち切って断面図のように表したとき、電流の流れる向きは



この図のように「●」と「×」で表します。

●になっている方が、奥から手前(自分の方)へ向けて。

×になっている方が、手前から奥(向こう)へ向けて、電流が流れることを表します。

ちょうど「矢」を真正面・真背面から見たときの形を当てはめた感じです。



これは電気の勉強をするときにも出てきますので、

ぜひ覚えておいてください。

さて、先ほどの模式図のような電気の流れのとき、

磁界はどのように発生しているか。

この線に流れている電気の流れ通りに「右ねじの法則」を当てはめると。



こんな風になります。上側の「奥から手前」に流れている線は、反時計回り。

下側の「手前から奥」に流れている線は、時計回りの磁界が発生します。

さて、その上の図での電流の流れている状態をサインカーブのグラフで表すと。



このグラフのAの部分になります。

つまり、U相に一番多く電流が流れています。

よって、磁界の強さもU相の部分が一番大きいことになります。

それぞれの線はそれぞれの強さの磁界を発生させていますが、

ある程度まとまっていると干渉や合成をして、ある一定の向きの磁界を作ることがあります。

このときの磁界は、一番強いU相の磁界を中心として、



このような磁界の向きを作ります。

つまり、このモーターのど真ん中の左から右へ、

磁石のN極とS極が発生したのと同じことになります。

これで、アラゴの円盤や冒頭で説明したものと同じ条件になりました。

あとは、この磁界を動かせばよいのです。

先に説明したとおり、合成された磁界の中心は、一番強い電流が流れている電線になります。

つまり、このサインカーブのグラフで、AからBへ移ったとき。



一番強い電流が流れているのは、W相という事になります。

このBでは、AのときはマイナスだったV相がプラスになっています。

つまり、モーターの中に流れる電流の向きも逆になっています。

よって、電流の向きと磁界はこのようになります。



電流の一番強いところと、電流の向きが逆になったところが発生したことになり、

磁界は反時計回りに移動しました。

よって、中に入っている回転子もつられて反時計回りに回転を始めます。

以下、サインカーブのグラフに沿って磁界の動きを追っていくと、このようになります。




このように、電流の流れる方向と強さを順次変えながら、

磁界をグルグルと回転させ、

中の回転子を動かしています。

実際の電流は以前のPWMの説明で書いたとおりのパルス波なので、

擬似的にサインカーブのような電流を流して

このような制御をしています。

以上のような感じで、

VVVFがなぜ三相交流を発生させていたかというと、

簡単に言えば、交流誘導電動機が三相交流で動かしやすいからなのです。

VVVFによって周波数を徐々に高くしていけば、

磁界の回転も徐々に速くなり、

モーターを速く回すことが出来ます。


以上で、VVVF制御関係のお話を終わりとさせていただきます。

相当に噛み砕いた説明を繰り返しているので、

いろいろ突っ込みどころはあるんですが、

より詳しいお話、もっときちんとした説明、実際の電車での回路などを学びたい方は、

専門の書物や教科書、実際の車両での仕様書や説明書などがありますので

そちらをご覧ください。