全般検査とは、車でいう「車検」のようなものです。
平たい言い方をすれば、「オーバーホール」で、
電車の検査の中でも一番大掛かりな検査です。
全般検査の内容を大雑把に二分すれば、
車体関係と台車関係のふたつに分けることが出来ます。
ここでは、車体関係の全般検査について説明します。
なお、現在新幹線を持っているJR4社のうち、
全般検査を行える機能を持つ車両基地は、以下の通りです。
JR東日本 新幹線総合車両センター(仙台)
JR東海 浜松工場(浜松)
JR西日本 博多総合車両所(博多)
JR九州 川内車両センター(川内)
4所では、それぞれ設備の違いによって、若干の違いはありますが、
だいたいやってることはほとんど同じです。
ではどのようなことをするのか、下の図にまとめてみました。
無茶苦茶簡略的な図ですが…。
全般検査に入る編成は、だいたい前夜に運用から外れます。
そこで、入場する車両基地まで回送されます。
総合車両所などの場合、運用から外れてそのまま入場ということもありますが。
各所によって、受け持ち担当の振り分け方などは違いがあるのですが、
博多などでは、
車体関係の全般検査には、大抵「タクト作業(スポット作業)」という方式をとっています。
これは、それぞれの作業ごとに車両を動かす「ライン作業」に近いですが、
その作業を行う作業者(作業グループ)も、車両と一緒に移動します。
なお、部品関係の検修は、その専門職場が行います。
別の項目でお話する台車の検修と違い、
入場から出場まで、ひとつのグループが作業を行うというのが、
全般検査の特長のひとつでもあります。
なお、ほかの場所ではおのおの違いますし、
川内では車両はジャッキアップした状態で動かさず、その場ですべての作業を行います。
1.入場前点検・分割作業
まず、入場する前に、入場前点検というものを行います。
これは、編成から電気を落とす前(車両を「殺す」前)に、各機器の動作状態を確認したり、
直さなければいけない箇所を確認、発見したり、
搭載用品がきちんと積まれているかどうかを点検します。
点検が終わると、いよいよ車両の電気を止めます。
パンタグラフを下ろして、車両に流れる電気をすべて切り、
しばらく車両にはお休みしてもらいます。
日本の大動脈を走り回る、新幹線車両、しばしの休息。
車両が「死ぬ」と、分割作業を行います。
車両同士をつないでいるジャンパ線(電線)などの渡り線や、
車体間ダンパなどを取り外します。
また、先頭車は光前頭覆い(ハナ)を開けて、連結器を出します。
これが終わると、入換用のディーゼル機関車に引かれて、台振線というところへ連れて行かれます。
2.入場台振作業
博多では、全検の場合4両いっぺんにジャッキアップできる設備があるので、
車両は1日に4両ずつ入ってきます。
それにあわせて、全検の作業を行う「解ギ装」という職場も、4つのグループに分かれていて、
1つのグループが1両ずつ受け持ちます。
要するに、16両編成なら、1グループにつき4両受け持つということです。
また、浜松では1両ずつクレーンによって持ち上げ、台車を抜き取ります。
川内では6両をいっぺんにジャッキアップして、
先ほどさらっと書いたようにその場ですべての作業を行います。
ここでは、博多の方式に沿って説明をします。
さて、分割した車両が4両、入換ディーゼル機関車によって台振線に入ってきました。
ここで、車体をジャッキで持ち上げて、台車と車体を分離します。
車体と台車を結んでいる牽引装置やカプラ、キャノンなどの電気線などを取り外し、
4両いっぺんにジャッキで持ち上げます。
台車を台車職場に送って、全検の作業がしやすいようにちょっと高い「ゲタ」を履かした
仮台車というものを車体とつなげます。
台車の全般検査については別の項で。
入場台振作業が終了すると、車体はようやく1両ずつバラバラになれます。
1両ずつバラになった車体は、解ギ装場へと運ばれていきます。
3.解装作業
解ギ装場へと運ばれてきた車体は、担当の人たちによって、
各機器を取り外されていきます。
その前に、車体に気密試験を行います。
これは新幹線ならではの試験で、
車体内部に大気圧の約4倍の空気を入れて、一定時間空気が許容値以内漏れなかったら合格、
というものです。
ここで、どこかに穴が開いていたりして気密が破れていた場合、
空気が漏れ出すのでわかります。
気密試験がOK(もしくは悪い場所がわかった)なら、早速解装に取り掛かります。
これは全検ごとに検修する機器が決まっているものがあり、
それに加えて入場前点検や運用中に見つかった不具合のある機器を
取り外していきます。
主に取り外す機器としては、
空調、ドアエンジン、トイレユニット、各ブロワ(送風機)、真空遮断機、換気装置、
パンタグラフ、運転台機器、ATC装置、などなどです。
また、車両によってはドアも取り外すことがあります。
ここで取り外した機器は、専門の機器・部品職場へと運ばれて検修を受けます。
#博総の場合、ほとんどの機器検修は外注化されてます。
4.車修作業
解装が終わると、車体に高圧の空気を吹き付けて埃をある程度取り除き、
車修作業という工程に入ります。
ここでは、その名のとおり「車両」を「修繕」します。
主にやることは、各部ゴムパッキンの取り替え、床下の配線や電気接点などの掃除、
妻面にある渡り線の掃除、ドアの排水溝の掃除、
貫通ホロに破れなどがある場合、取り替えを行います。
また、ガラスにキズがあるものは取り替えますし、先頭車などのガラスを固定しているシールに
劣化があった場合、打ち替えなども行います。
解装でドアを取り外した場合は、ここで取り付けておきます。
なお、改造などの作業がある場合は、ここの工程を長く取って行います。
気密試験等で車体を直す場合も、ここで直します。
5.塗装作業
車修作業が終わると、水洗い場というところへ持っていき、車体を水で洗います。
そして、塗装ラインへと入っていきます。
車両に合わせて、それぞれの色を塗っていきます。
6.ギ装作業
どうでもいいですが、ギ装は漢字で書くと「艤装」となります。
ですが、漢字で書くとめんどくさいので、普通はこのようにカタカナで書いています。
ギ装作業では、解装作業で外した機器をつけていきます。
また、ここで車両ごとに各種の試験を行います。
車両配線の導通、絶縁、耐圧試験。
また、ブレーキ制御装置や主変換装置の動作試験などを行います。
そして、気密試験を行って、きちんと気密が保てるかどうかを試験します。
7.落成台振
ギ装が終わると、4両そろって台振線へと運び、台振作業を行います。
ジャッキアップして仮台車を取り外し、台車職場が検修した台車を入れます。
また、ここでユニットごとに渡り線などの取り付けも行います。
この台振作業が終わると、解ギ装のお仕事は一応終わりとなります。
8.編成組成・出場検査
台振をした車両は、入換用ディーゼル機関車に引かれて、出場検査線というところへ入ります。
ここでは、編成を組んだ状態での各種テストを行います。
また、なにかミスをしていないかなどの点検を行い、手直しの指示を出します。
台振を終えた車両が次々と運ばれてきて、編成を組成します。
ここで、新幹線車両も息吹を取り戻します。
編成での各種のテストを終え、手直しも終了すると、いよいよ試運転となります。
まず最初に、車両所構内で低速で試運転を行います。
ここで、各主変換装置などの電流の確認を行います。
構内試運転が終了して再び点検が行われます。
床下各部に何か異常は無いか、屋根上に異常はないかなどを確認します。
そして、いよいよ本線試運転となります。
本線では最高速度まで出して、ATC信号の頭打ちをするかの確認、
非常ブレーキの確認、電流値の確認、
また、走行中にどこか異常がないかなどを確認します。
こうして「異常なし」となれば、全検出場、運用復帰となります。
全般検査は、だいたい12〜13日で工程が組まれています。
16両編成だと若干長くなりますが、普通は半月くらいで出場となります。
なにか改造工事が入れば、そのつど工程も長くなります。
以上が、車体関係の全般検査の概要です。