探索レポート
ダムに沈んだ国道186号旧道と弥栄隧道

 3月上旬のある日。とある旧道・廃道探索サイトを見ていると、広島県大竹市にある弥栄ダムの水位が減って、そのダム湖に沈んだ国道186号旧道の一部と弥栄隧道が姿を現しているとの情報を入手。こいつは探索に行かねばと、その日の夜のうちに情報を集めて精査。
 その結果、特に大袈裟な準備をせずとも探索が出来そうとの確証を得たため、翌日赤い隕石号を走らせて探索へと向かったのでした。

 まず、今回の探索先となる弥栄ダムについて。(弥栄ダム公式サイト

 このダムは広島県と山口県の県境を流れる小瀬川に、洪水調整、不特定利水、上水道、工業用水、発電を目的に建設された多目的ダムで、1971年着工・1991年竣工しています。事業主体は国土交通省中国地方整備局。提高120.0mの重力コンクリート式ダムで、ダムにより出来た湖を「弥栄湖」と言います。
 実際にダムの効能としては、台風での洪水防止や渇水時の水がめとして機能しています。
 さての、このダムの完成により水没してしまった国道186号と弥栄隧道。現道はダムサイトの手前から山の斜面に張り付いて高度を稼ぎ、ダムサイト横を抜けてからは複数のトンネルによってダム上流部へと通っています。なおこの道、平成18年6月26日に豪雨によってトンネルのトンネルの間で落石が発生し、現在はロックシェードを建設中。
 弥栄隧道が完成したのはいつか明確にはわからなかったのですが、この道が二級国道186号として指定されたのが1953年の事なので、おそらくその前後に完成したのでしょう。

3月7日
 さて、出発前に再度、弥栄ダム公式サイトで現在の貯水率を確認。有効貯水率がなんと14%。利水貯水率が31%とかなり減っているのを確認。やっぱりこの暖冬で積雪が少ないから、上流部から水が流れてこないのかなぁ?
 この探索に出る数日前にちょっと雨が降って少しでも回復しているのかなと思ったのですが、そんなこともなさそうだったので、赤い隕石号を走らせて西へ。大竹市に入って国道2号から分かれ、国道186号をダム方面へ。ダムサイトを通過したところでちらりとダムの水面を見ると、やっぱりかなり減っていることがわかった。
 そのままトンネルを突き抜けて、連続したトンネルを抜けきったところの道路左側にある「白滝広場」というところで車を止める。ちょうどこのあたりが旧道と現道の合流地点みたいで、ここから先は徒歩探索。

 車止めがしてあって、ここから先は車両通行禁止。というよりも、本来ならちょうどこのあたりからダム湖の水面があるだろうから、フツーの考えなら車を進入させようとは思わんでしょうが。同じように、人の立ち入りを禁ずるような表示はなかったけど、ダム湖があるので物理的に難しいだろうし。
 進入地点から下流側を見ると、山の斜面に水平にくっきりと線が。これが本来のダムの貯水量で、その水もほとんどなくて、ダムが完成する以前の川であろう場所を水が通っている状態。
 ちょうどすぐ目の前に橋も見えて、そこから砂で白くなっている。とすると、やっぱりこの辺はダム湖に浸かる事が多い場所みたい。

 進入してすぐのところにある橋。親柱を見たところ、名前は「白瀧橋」で、渡っている川は「高祖川」というみたい。このへんは橋もアスファルトも汚れてるけどしっかりしてるし、常時水没している場所では無いみたい。斜面の緑もしっかり繁ってるから、ちょうど水に浸かるか浸からないか、という微妙な場所なんだろうな。
 橋は1.5車線無いくらいの幅で、この先も全体的にそういう感じだったので、旧道を使っていた時代は大型車はあまり通れなかったんじゃないかと。

 暗渠とそれを撮った地点から上流側。アスファルトもそうだけど、石積みとかの構造物は砂や土のせいで真っ白になってるけどまだしっかりしてる。水没して15年程度だからなのか、まだこの辺は水深が浅いせいかはわからないけど。
 上流側を眺めると、両岸の水深は浅いみたいだけど、本来の川の流れがあったところはけっこう深いみたい。土砂が堆積してるし、若干流れも変わってる様子。

 ガードレールの支柱も全面的に切り取られてるんだけど、アスファルトはしっかり残ってるし、白線もまだ健在。その先にはもうひとつ小ぶりな橋があって、土砂も堆積してるのでたぶんこの橋は常時水没してるんだと思う。橋の名前は「高鉢橋」で川の名前も同じ「高鉢川」。

 行く先の斜面に、一直線に伸びる線=本来の水位。水ってのは必ず水平になるから、こう見ると道が緩やかに下り坂になってるのがわかる。出発地点から、もう人の背丈より深いところに下りてきてるのがわかる。この状態で水を満水にしたら、間違いなく溺れるな。
 斜面も所々崩壊してて、道路端も崩れているところが出てくる。この辺からアスファルトの上にも土砂が堆積して歩きにくくなってるけど、それでも水がなくなってからけっこう経つのか、完全に乾いているところや、湿り気を帯びているけどそこまで深く沈まないところも多かった。

 このあたりに住んでいた地元の人が使っていたのか、小さな橋が残ってた。反対側はなだらかな斜面になってるけど、水没して地形が多少変わってるだろうから、昔は住宅や農耕地があったのかしら?
 この逆の斜面側を見ると、落石防止ネットが本来の水面あたりでバッサリと切れてた。これは、水没前に切っていったのか、それとも水没してから腐食で切れたのか。ネットの残がいは見当たらなかったけど、それを支えていたであろうワイヤーは所々下に落ちて残ってた。

 以前来ていた人たちの足跡ともに、明らかに人間以外の動物の足跡も。これは、イノシシかな? いつのまにか現れて、この先目的とするトンネル近くまで続いていました。

 だいぶ進んで来た所で、目的のトンネルが見えてきた。その向こうには、ダム湖の中ほどで岩国方面への道として渡る斜張橋が。
 さすがにこの辺になると道路の上に堆積した土砂もかなりの量になって、歩くと沈む感じに。先行者の足跡を参考に、比較的よく締まっていそうな場所を選定して歩く。踏み抜いちゃったら、最悪だしね。たぶん、川の方は底なし沼のようになってるんじゃなかろうか。
 ところどころ、斜面側から水が流れてきていて、道路上の土砂を洗ってアスファルトを覗かせてた。この画像を撮った地点で、だいたい10センチ強くらい堆積してたかな? この斜面の上には現道のトンネルとトンネルの間があるみたいで、いろいろゴミも一緒に落ちてきてた。

 さらに先を行くと、大規模な斜面崩壊に出会う。道路上に岩が落ちてるし。堆積した土砂の上に落ちてるので、水没後しばらく経ってから崩れたんじゃないかと思う。トンネルに近づくと、アスファルトの上の土砂もかなり厚くなって、20〜30センチくらいの厚さがあったように感じた。
 やるのも無駄というかメーワクな気はするけど、スコップ使ってアスファルトの上の土砂を取り除いたらものすごい量になるだろうなぁ。てか、堆肥として使えないのかな?

 トンネル前は土砂の堆積量が酷くて(ちょうど堆積しやすい場所だったのかも)道路の上よりも、川沿いの砂地の方がはるかに歩きやすかった。
 そんなわけで、目的地の弥栄隧道に到着。途中からちょっとカーブしている、1.5車線程度のトンネル。作りは全然しっかりしてるし、コンクリートの状態もものすごく良好。まだ現役で充分使えそうな感じだった。

 扁額の状態も良好。トンネルの路面も途中からはかなり柔らかくて、下流側は完璧にダム湖の水面が出現。ちょうどこのあたりからダム湖の水深も深くなっているみたいで、もうこの先は徒歩で進むのは不可能。

 この探索後、探索で通った道とは対岸側にある遊歩道の入口にある展望台で撮ったトンネル。見ての通り、ちょうどこのトンネル付近で湖面の水の色が全然変わっているので、水深が急激に深くなっているみたい。
 本来の水面もかなり高いところにあるので、このトンネルは本当なら常時水没しているみたい。ダム湖の中の、短い水路になっているんだろうな。
 目的も達成したので、引き上げ。このあと、付近を色々探索したんですが、ダムサイト近くでこんなものを見つけた。

 画像左側には集落があるのですが、そこから続く道に、なんか丸い基礎がふたつ。ここに、なんかあったんだろうなぁ。
 ダムそのものもほとんど放流してないみたいで、シンとしてました。


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