鋳造実習


工業高校機械科に通っている後藤のお話です。

3年生になると、実習で鉄を溶かして鋳込む、鋳造実習があります。

1年生でも鋳造実習はありますが、鉄ではなくアルミを溶かします。

表札を作るのですが、1年生なので、

「す」(小さな気泡)が入りまくった表札が出来ます。

商品にはなりませんが、お持ち帰り品だから良いんです。

でも、後藤の時はもらえなかったなぁ。

あれはどこにやったんですか、先生。

いまさら、もういらないけど。

さて、実習時間になります。

実習場へ行くと、すでに炉に火は入ってました。

鉄の溶ける温度は何度だと思いますか?

確か、1536℃だったと思います。

今ノートを見たら1534℃でした。おしい。あ、純鉄がね。

実際は、合金鋼となるので、性質によって上下します。

今回は銑鉄なので、だいたい1400℃強です。

どんな材料でも不純物はあるので

アルミはだいたい660℃、亜鉛は420℃くらいで溶けます。

アルミや亜鉛といった低融点金属ならば、

実習が始まってから坩堝(るつぼ)に入れて、バーナーを突っ込んだ

炉に入れれば、20分ほどで溶けてしまいますが、

鉄の場合はそうはいきません。

朝7時から先生が火を入れて、じっくりじっくりと温度を上げていきます。

実習が始まります。10時45分。つまり、3時間以上。

工場なんかは保守点検の時以外は火を入れっぱなしです。

シェルモールドで作った小型万力の鋳型を並べて、土に埋めます。

あ、鋳込みの口だけはもちろん出しておきますよ。

シェルモールドとは、珪砂(サラサラの砂)に熱硬化性の樹脂を混ぜた

ものを焼き固めたものです。

貝殻状になるんですが、匂いもなんか磯っぽいような変な匂いです。

樹脂が焼けた匂いなんですが、あまりいい匂いではありません。

まぁ、貝殻状になるから「シェル」なんて名前がついてるんですが。

熱硬化性の樹脂とは、熱を加えれば固まる「糊」みたいなものです。

「寒天」や「ゼラチン」の逆バージョンですな。

ただ固まったら、また冷やしても固まったまんまですけど。

この鋳込んだ小型万力は、2年生が使います。

我々も、先輩方が鋳込んでくれたもので小型万力を作りました。

さて、炉の中はだいたい1300℃くらいまで上がっています。

湯気どころではなく、煙が上がります。

冬なのに窓も扉も全開ですが、すぐに暖かくなります。

なにせ炉は1300℃ですから。

ここで、炉へ送風を開始します。

すると、炉の上やすきまから火花がパーっと散ります。

しばらく送風したら止めて、コークスを何回かに分けて追加投入します。

さて、これを何度か繰り返せば、1400℃強まで温度が上がります。

さぁ、鋳込みを開始します。

坩堝を2本の鉄の棒で支えて、鉄を受けます。

鉄が、とろとろとろ〜っと流れながら、火花をバシバシと上げます。

火花の姿は線香花火そのものです。

実際、危険であるにもかかわらずすごく綺麗です。

しかし、見惚れているヒマはありません。

重い坩堝に鉄の棒、溶けた高温の鉄を持っているので、

腕と腰に意外に負担がかかります。

温度が下がらないうちにすばやく鋳型へ鋳込みます。

鉄がなくなるまで続けます。

鉄がなくなったら、後片付けに入ります。

しかし、まだ炉の内部は1400℃近くあります。

冷やすためとかいって水でもかけようものなら、

炉が壊れる上に自分自身も大怪我してしまうかもしれません。

とりあえず、暑いですがコークスを取り出します。

炉の中のコークスは、あんなに真っ黒だったものが、

信じられないほど真っ白になっています。

丸っきり逆の色です。感動します。

本当に熱いと、色は赤ではなく白くなるのです。

火を見ると人は落ち着くとか言いますが、

あんなのを見るとホントに感動します。

後藤は希望の就職先に内定をもらいましたが、

鋳造職場に行ってもよかったかな、と思います。

ちなみに鋳造職場は3K(危険・きつい・きたない)職場ですが、

やめる人はなかなかいないそうです。

そりゃそうだ。あんなにきつくても楽しい仕事は滅多にない。

機会があったら、ぜひ見てみてください。

物作りに興味のある小中学生は、工業高校も面白いよ。

実習を始めた頃は寒がっていた班員も、

今ではしっかりと暖まって元気に働いています。

コークスに水をぶっ掛けると、あっという間に蒸発します。

石狩鍋の比ではありません。

あのコークスを全部水にいれたら、家の風呂が軽く沸くでしょう。

機械科、とくに鋳造なんかやると、

水の沸点100℃なんてすっごく生ぬるそうな気がします。

「100℃ぉ? なんだ、亜鉛も溶けねえぞ」

鉄の融点1500℃が基準の世界ですから。